映画『盤上の向日葵』。ラストに甦った“生ききれ”という声
映画『盤上の向日葵』を観てきました。
原作は柚月裕子さん。読み始めた瞬間からワクワクが止まらず、一気読みしたミステリーです。
その物語が映画化されると知って、しかも制作が松竹。
昔シナリオを学んでいた頃に触れていた会社でもあり、「人の心情を深く描いてくれるはず」と大きな期待を寄せて映画館へ向かいました。
キャスティング発表のときも、「そう来たか!」と自然とテンションが上がったものです。
主演は坂口健太郎さん。「へぇ」とちょっと驚きつつも期待せずにはいられませんでした。
ベテラン勢が脇を固めていて、原作の世界観がそっと立ち上がってくる感じ。
読んだときの登場人物像を思い出しながら、「あの場面はどう描かれるんだろう」と想像する時間も楽しかったです。
特に嬉しかったのが、佐々木蔵之介さんと高杉真宙さん――私は2人が出演しているドラマはついチェックしてしまう派です(笑)
この二人が捜査を進める刑事役。渋みと透明感、全然違う色を持つ2人で、コンビを演じるのかと楽しみが増しました。
そして鑑賞後――
まず思ったのは、坂口健太郎さんの芝居の凄み。
ドラマで見せる柔らかい印象をはるかに超えて、静かに内側で熱を燃やし続ける人物像を成立させていました。
目の芝居、たたずまい、セリフに頼らない暗い深度。
原作で想像しきれなかった人物像がそこにいて、観客を物語へ連れていく力がありました。
そしてベテラン陣――小日向文世さん、木村多江さんのシーンは本当に安心感を与えてくれました。
お二人の芝居の“間”が、映像に奥行きをつくり、大げさではなく、ただ確かにそこに生きている人として立っている。
映画の温度を整える存在感でした。
一方で、映画全体のテイストは思っていたよりも“昭和寄り”。
原作が持っていた淡々と張りつめていく緊張感よりも、登場人物の背景や情念を色濃く描こうとしたぶん、少し輪郭がぼやけたような印象もありました。
原作を読んだときの「息を止めてページをめくる感覚」は、映画ではやや薄まったかな。
それでも、強く残ったシーンがあります。
映画のサブタイトルでもある 「生ききれ。最後まで──」
これは渡辺謙さんが放つ台詞で、圧巻でした。
その一言の重さ、声の深さ、そして“人生そのものを背負ってきた人間しか出せない説得力”。
たった1行なのに、物語全体の支点になっている台詞でもあります。
ラスト、主人公がその言葉を思い出し、突き動かされるシーン。
そのあとどうなるのかは語られず、余韻を残したまま幕が下ります。
……実は、原作も同じ終わり方なのですが、モヤモヤが残るのです。
だって、主人公は“やっていない罪”まで背負うことになるかもしれないのだから。
それでも、“その選択をしてでも守りたいものがあった”とも読める。
この結末をどう受け取るかは、観る側に委ねられたまま。
小野桜介くんの演技も良かった。
子どもが背負うには重すぎる運命、彼の目に宿る“静かな決意”。
自分の気持ちを押し殺して作り笑顔をする場面は凄かった。
【主なキャスト】
坂口健太郎 渡辺謙 佐々木蔵之介 高杉真宙 土屋太鳳
小日向文世 木村多江 柄本明 渡辺いっけい 音尾琢真 尾上右近
【主題歌】
サザンオールスターズ「暮れゆく街のふたり」
公式HP https://movies.shochiku.co.jp/banjyo-movie/
エンディングにサザンが流れると、映画全体が静かに閉じていく。
“ミステリーの余韻”ではなく、“人の生き方の余韻”が残る映画でした。
アイキャッチ画像:GP
